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研究内容

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獣医生理学教室では哺乳類における個体および種の維持機構の解明という観点から、「成長と生殖の分子機構」をメインテーマに、神経生物学的あるいは細胞生物学的研究手法を取り入れた幅広い研究を展開しています。研究には私達自身で作出した遺伝子改変動物(遺伝子を適当なプロモーターと組み合わせて導入したトランスジェニックラットや、特定の遺伝子を破壊したノックアウトマウス)を多用するとともに、附属牧場で系統造成されているシバヤギ(研究用のクローズドコロニーの確立している在来種)等を用いた実証研究にも取り組んでいます。動物体内で営まれる生命現象とその調節機構に関する基礎的研究を基盤として、新しい動物産業への展開や病態に対するより深い理解など、応用面への貢献を目指すことができればと考えています。具体的には、ステロイド/成長因子の中枢作用機構成長・代謝の中枢制御機構間葉系幹細胞の分化制御機構の研究を3つの柱として研究しています。

ステロイド/成長因子の中枢作用機構

生殖は脳と性腺が両輪となって進行していく現象です。脳と性腺は様々な液性因子を介して情報を交換し、環境の変化に応じて雌雄それぞれの性的役割を発現させています。私達は中枢と末梢がどのように協調して生殖過程の進行を制御しているのか、その仕組みの解明を目指しています。 動物の脳には形態的にも機能的にも性差が存在し、行動の雌雄差や性周期の有無を生じる原因になっています。このような性差は、発生過程の一定の時期(臨界期)に性ステロイドが脳に作用し、性分化を誘導することにより生じます。我々は、 cDNAサブトラクション法やマイクロアレイ法により、性分化の臨界期に性ステロイドで脳に発現誘導される遺伝子として成長因子プログラニュリンをはじめとする幾つかの遺伝子を同定し、さらにプログラニュリンノックアウトマウスを作出するなどして脳の性分化の分子機構や、性差の意義を追究しています。また、生殖機能はストレスにより強く抑制されることが知られています。我々は感染ストレスがサイトカインを介してGnRHパルスジェネレーターを抑制することを発見するとともに、ストレスにより分泌が促進されるグルココルチコイドが従来の概念とは逆にむしろ生殖機能を保護していることを実証し、その中枢作用機構の解明に取組んでいます。一方、近年成熟動物における性ステロイドの神経保護作用、すなわち脳における神経幹細胞の分裂促進や細胞死の抑制により脳機能を維持する作用にも注目が集まっています。我々は神経保護作用においても性ステロイドによりプログラニュリンの遺伝子発現が上昇することを見出し、性ステロイドと成長因子の脳機能維持における共役機構を追究しています。プログラニュリンは近年、その遺伝子変異が前頭側頭葉変性症等の神経変性疾患の原因となることが報告され、認知症の発症との関連が着目されています。我々はプログラニュリンが神経幹細胞の増殖を促進したり、神経炎症を抑制する作用をもつことを見出しました。このようなプログラニュリンの神経保護作用が神経変性疾患の抑制に関連していることが考えられ、脳内におけるその生理作用や病態発現の分子機構の解明を目指しています。

成長・代謝の中枢制御機構

動物の成長や代謝も様々な環境因子の影響を受けています。脳は環境の変化を統合し、成長ホルモンの分泌パターンを変化させることなどにより環境適応を果たしているものと考えられます。また、代謝異常が発現した場合には臓器間シグナル等によりその異常を補償し、個体としての代謝の恒常性を維持していく仕組みがあることも明らかになってきました。私達はトランスジェニックラットやシバヤギ等を用いて、成長と代謝の恒常性維持機構の解明に取組んでいます。 動物の成長や代謝の制御に関わる成長ホルモン(GH)は、持続的にではなく間欠的に、すなわちパルス状に分泌されており、そのパルスパターンが生理作用の発現を規定しています。我々はシバヤギのGHパルスが極めて規則的であることを見出し、また脳脊髄液の連続採取が可能であるというシバヤギの特長を活かして脳内の神経ペプチド動態と末梢血中のGHパルスの相関を解析することにより、GHパルス発生機構を検討しています。さらに、GHパルスのパターンは性周期により大きく変動し、エストロゲンにより促進され、プロゲステロンにより抑制されることを明らかにしましたが、このような性ステロイドによるGHパルスの修飾が生殖の各ステージに適した体内代謝環境を形成することに貢献していると考えられます。また、成長や代謝は様々なストレスによっても大きな影響を受けますが、ストレス時のGHパルスパターンの変化やそれに対するグルココルチコイドの影響を解析することによりそのメカニズムを解明したいと考えています。一方、我々はヒトGH遺伝子を導入したトランスジェニックラットを作出し、成長や脂肪蓄積、あるいは摂食制御におけるGHの意義を解明しています。本トランスジェニックラットでは肥満やインスリン抵抗性、骨格筋量の低下 、 骨密度の減少などの興味深い表現型が観察され、動物が本来備えていると考えられるインスリン抵抗性に対する臓器間シグナルを介した補償機構や、 骨格筋減弱症併発性肥満の発現機序 、さらにはGH分泌低下に伴う骨粗鬆症発症機序などを解明するためのモデル動物としても利用し研究を進めています。

間葉系幹細胞の分化制御機構

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組織特異的に存在する体性幹細胞は、生体内外の環境に応じて分化が制御され、当該組織さらには個体の恒常性の維持に重要な役割を果たしています。私達は骨格筋に存在する筋衛星細胞に着目し、その分化を制御する階層的なシグナル系の同定と、幹細胞の分化制御を介した恒常性維持機構の解明を目指しています。動物の骨格筋は多核の筋線維から構成されていますが、筋線維の筋形質膜と基底膜の間には筋衛星細胞と呼ばれる単核の細胞が存在しています。筋衛星細胞は通常休止状態にあるため、"眠れる筋芽細胞"とも呼ばれています。しかし若齢動物が成長して骨格筋が発達する時期には、筋衛星細胞は活性化し、増殖しており、これらの細胞は分化したのち、最終的には既存の筋線維へ融合します(筋線維の肥大)。一方、骨格筋が怪我により損傷を受けた場合にも筋衛星細胞は活性化し、同様の過程を経てお互いに融合し新たな筋線維を再生します。また、近年、筋衛星細胞は筋細胞だけでなく間葉系の他の細胞(脂肪細胞、骨細胞など)へも分化しうることが発見され、間葉系幹細胞としての性質も持ち合わせている可能性が考えられています。我々は骨格筋の発達、再生に重要な筋衛星細胞の増殖、分化、休止状態の維持それぞれにおける制御機構を解明するとともに、間葉系幹細胞としての性質にも着目し、他の細胞、特に脂肪細胞への分化がいかなる機構により生じるのかを明らかにしようとしています。これまでの研究の結果、筋衛星細胞の有する潜在的な脂肪細胞への分化能は骨格筋毎に異なること、また筋衛星細胞が筋細胞または脂肪細胞のどちらに分化するかの決定には周囲に存在する筋線維の状態、すなわち細胞外環境やパラクリンファクターが大きく関わっていることが分かってきました。骨格筋内に脂肪が蓄積する現象は霜降り肉が有名ですが、加齢時や筋原生疾患時にも見られることから、これらの研究成果は骨格筋内への脂肪蓄積を人為的に制御する方法論(例:筋衛星細胞を脂肪細胞へと分化させ、霜降り肉を効率よく生産するなど)確立への応用が期待されます。

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